: 1

ダグラス : よお、二人とも!

キャトラ : あら、ダグラスじゃない。

アイリス : この前はありがとうございました。

ダグラス : ああ、みんな無事でよかったぜ。

いま、ライオンのおっさんにも会ってきたけど元気そうだったしな。

キャトラ : あら、バロンのこと?アンタたち仲良かったっけ?

ダグラス : まあな。初めて会ったときから他人とは思えない共感できるものがあったからよ。

会う度に髪の手入れのこととかよく情報交換してるぜ。

キャトラ : へえ、そうなのね。

ダグラス : あとはオレが絵やら陶芸やら芸術に目覚めちまったからもの作りの話をしたりな。

アイリス : たしかにバロンさんと話が合いそうですね。

ダグラス : ああ、話してると新しい発想が生まれたりするんだよ。

アイリス : いいですね、そういう関係って。

ダグラス : ははっ、いい刺激になってるよ。

キャトラ : というか、バロンもそうだけど、ダグラスは大丈夫なの?

ダグラス : なにがだ?

キャトラ : 体よ、体。

アイリス : そうですよ。この前の戦いで<[AC0D0D]EMETH[FFFFFF]>を暴走させたことでだいぶ負担がかかったんじゃ……

ダグラス : そうだな。あれからしばらくは結構キツイもんがあったぜ。

アイリス : やっぱり……

ダグラス : ま、でも、瘴気だって長いこと付き合ってきたから慣れてたってのもあるし<[AC0D0D]EMETH[FFFFFF]>もこっからだろ。

キャトラ : なんか軽く考えてるわね。

ダグラス : だって、<[AC0D0D]EMETH[FFFFFF]>は瘴気と違って悪いもんじゃないしな。

アイリス : それはそうかもしれませんが……

キャトラ : でも、まだ完成してるわけじゃないんでしょ?

ダグラス : 中枢部分はブラックボックスだらけって、カティアは言ってたな。

キャトラ : じゃあ、どんな副作用があるかもわからないじゃない。

ダグラス : そうそう。だから期待してんだよ。

ブラックボックスってのは中身がわからないってことだろ?

だったら、その中にもっといいもんが入ってるかもしれねぇじゃねぇか。

少なくともオレはそう思うようにしてるよ。

アイリス : ダグラスさん……

キャトラ : まあ……アンタらしくはあるけど……

くれぐれも無理はし過ぎないようにね!

 : 2

アストラ島での戦いから、少しさかのぼったある日——

ダグラス : はあ……はあ……くそっ……まだだ……

ウォォォオオオ!!!

がはッ……

カティア : ちょっと何度言えばわかるの!?

無理し過ぎたら<[AC0D0D]EMETH[FFFFFF]>を使いこなす前にアンタの身体が潰れるのよ?

ダグラス : ……わかってるさ。

ただ、今日こそいけそうな気がしたんだよ。

カティア : はあ?

ダグラス : ここんとこ、毎朝五時に起きて体操とランニングだろ?

それに加えて食事も穀物と野菜を中心にしてるからかなんだか体の調子が良くてよ。

カティア : きちんと効果は出てるみたいね。

というか、そういうのをちゃんと続けられるのが意外だわ。

ダグラス : おいおい、それくらいその辺の爺さんだって——

カティア : ただ、せっかく手にしたプラスを調子に乗って使い倒して結局マイナスにしてしまうのは愚の骨頂よ。

ダグラス : ぐ……

カティア : 生活習慣を見直せるなら戦闘においての考え方も再検討しなさい。

これも何度も言ってるけど私がアンタのテスター志願を受け入れたのは——

ダグラス : 前線に立つだけが戦いじゃないって教えたいんだろ?耳にタコだぜ。

カティア : わかってるじゃない。

休息も重要なファクターよ。もっと自分の身体を労るのね。いまよりももっと前へ進むために。

ダグラス : ……わかったよ。

 : …………

……

ダグラス : でもさ。そんなにオレの体を心配してくれるならどうして任せてくれたんだよ。

カティア : なにが?

ダグラス : ヤバい代物のテスターだよ。

カティア : 簡単なことよ。

瘴気みたいなじゃじゃ馬と付き合ってたアンタなら開発段階の<[AC0D0D]EMETH[FFFFFF]>でもどうにかなると思ったからよ。

ダグラス : ははっ、なんだか人体実験みたいだな。

カティア : そう捉えてもらっても構わないわ。

ダグラス : ったく、あんたはオレの体を気遣ってくれてんのかこき使いたいのかよくわからないな。

カティア : なにかご不満でも?

ダグラス : いーや、別に。だいぶ体も休まったし、実験体はそろそろ訓練に戻るさ。

カティア : そうね。適度に頑張りなさい。

ダグラス : へいへい。

カティア : あ、そういえば一応、他にもあったわ。アンタを選んだ理由。

アンタならどんなことでも<[AC0D0D]できちまう[FFFFFF]>と思ったからよ。

ダグラス : フッ……

そんなの当然だろ。オレならな。

 : 3

アストラ島での戦いから、少しさかのぼったある日——

ダグラス : よし……用意はできちまった……

(あとはこいつを本能の赴くままに……)

(……でも、いいのか?ここまで耐えてきたんだぞ?)

(いや、違うな。これまで耐えてきたからこそ今日くらいは……)

??? : なにをしているんだ?

ダグラス : え、あ、う、あ!……ち、違う! これは!

……ってなんだ。バイパーじゃねぇか。脅かすなよ。

バイパー : 脅かしたつもりはない。お前が勝手に焦り出したんだ。

ダグラス : べ、別にオレは焦ってなんか……おまえこそ、なにしに来たんだよ?

バイパー : 息抜きに酒を飲みに来ただけだ。文句でもあるか?

ダグラス : それならオレだって、食事しに来ただけだ。文句ないだろ?

バイパー : ふむ……シチューに、ビフテキ……お前の好物ばかりだな。

ダグラス : 本当は姉ちゃんの作ったシチューが良かったけど、今日はまあ、仕方ねぇ。

バイパー : たしかに妙なところはないようだ。

ダグラス : だろ?

バイパー : なら、この写真を誰に見せても問題ないな?

ダグラス : なっ……!いつの間に撮りやがった!

バイパー : ただ食事をするにしては様子が変だったからな。スクープの匂いがしたんだが俺の勘違いだったようだ。

もう一度聞く。この写真を誰に見せても問題ないな?

ダグラス : そ、それは……

バイパー : たとえばクロエとか——

ダグラス : ダ、ダメだ! それだけは!

バイパー : そうか。なら、教えてもらおうか。お前がなにを隠しているのかを。

ダグラス : くっ……

いやさ、オレがダウンしてから、姉ちゃん、献立にすげえ気遣うようになっちまってな……

油や塩分を控えた一汁一菜しかほとんど食ってなくてよ……

オレ自身、生きてくには大事なことだってわかっちゃいるけど……

バイパー : それが耐え切れず犯行に及んだと。

ダグラス : 犯行は言い過ぎだろ!それにまだ及んでねえし!

バイパー : お前がなにを食べようが俺にはどうでもいい。ただ、食生活を変えてから体はどうなんだ?

ダグラス : だいぶいい感じだぜ。

バイパー : なるほど。なら、せっかく手にしたプラスを欲に負けてマイナスにするのは愚かな行為だとは思うけどな。

ダグラス : ぐはっ……やめてくれ!同じような説教をいろんなやつから聞きたくねぇ!

バイパー : まあ、でも、制限することだけがいいとは限らない。ダイエットにもチートデイは有効だと聞くしな。

いいぞ、ダグラス。今日だけは思う存分食べろ。

ダグラス : バイパー、おまえ……

バイパー : その分、明日からまた精進すればいいさ。

ダグラス : そうだな……じゃあ今日のところは遠慮なく……

うーん……でもな……いや、やっぱり今日くらいは……

よし……覚悟を決めたぜ!行くぞ、オレ!それじゃ、いただきま——

??? : なにやってるんですか?

ダグラス : げ、が、ぐ、が!……ち、違う! これは!

……ってなんだ。メアじゃねぇか。脅かすなよ。

メア : そんなつもりはないですよ。ダグラスさんが勝手に慌てたんじゃないですか。

バイパー : …………

まあ、この瞬間のあいつも写真に収めておくか。

 : 4

アストラ島での戦いから、少しさかのぼったある日——

セラ : ——やっぱり、ここも海洋生物が減っているみたい。

ダグラス : またか……

他と同じようにソウルの輝きが減衰してるのが原因なのか?

セラ : 恐らくね。

ダグラス : このまま行くと世界はどうなっちまうんだ?

セラ : どうかしらね。その辺りは別チームが詳しく調査していると思うけど……

……少なくともどんな生物にとっても生きづらい環境になることは間違いないでしょうね。

ダグラス : そうか……そうだよな……

セラ : さて、今日のところは一旦引き上げましょうか。報告書の作成もしないとだし。

ダグラス : ああ。

 : …………

……

セラ : 大丈夫なの?レディ・キラーの任務を手伝ってて。

ダグラス : いまは、世界が大変だしな。まあ、でも、いまの自分にできることしかやってないさ。

セラ : そう……なら、いいんだけど……

…………

そういえば、最近、絵をやってるんでしょ?

ダグラス : まあな。

セラ : いま、描いてくれない?あたしの絵。

ダグラス : なんでだよ。

セラ : いいじゃない。あ、もしかして緊張しちゃう?

ダグラス : んなわけないだろ。

セラ : じゃあ、いいでしょ?

ダグラス : …………

わかった……描いてやるよ。

セラ : 美人に描いてね。

ダグラス : オレは見たまましか描けねぇよ。

——ほら、できたぜ。

セラ : ふふっ、どんな感じで描いてくれたのかしら。

……へえ。いい絵ね。

上手いかどうかは個人の感覚によると思うけど。

ダグラス : なんだよそれ。せっかく描いてやったのによ。

セラ : ふふ、あなたが描いてくれた世界に一つだけの絵だもの。大切にするわ。

ダグラス : ……おう。そんな改まって言われるとそれはそれでな……

まあ、またいつでも描いてやるさ。

セラ : ……ええ、約束よ。

 : 5

アストラ島での戦いから、少しさかのぼったある日——

ヨシュア : てやあああ!

えええいっ!

ダグラス : (へえ。ヨシュアのやつ、なかなかいい太刀筋じゃねぇか)

ミレイユ : どうですか?お兄ちゃんは。

ダグラス : 気迫がこもってて、いいと思うぜ。普段からだいぶ練習してんだな。自分の剣っていうのを見つけてきてる気がするよ。

ヨシュア : 僕に剣を教えてください。僕はダグラスさんの代わりになれるくらい強くなりたいんです。

ダグラス : おまえはおまえだ。オレの代わりにはなれないし、なる必要はない。

ヨシュア : …………

ダグラス : だいたい<[AC0D0D]できちまう[FFFFFF]>だなんて言ってたオレを前にしてオレを目指すみたいなこと言うなよ。

本当にオレを目指すってんなら、『アンタを超えることくらい簡単に<[AC0D0D]できちまう[FFFFFF]>』くらい言うもんだぜ。

ヨシュア : ……わかりました。

いつか必ずダグラスさんを超えてみせます。いつか<[AC0D0D]できちまう[FFFFFF]>って言えるくらいの男になります。

ダグラス : (ヨシュアなりに努力してんだな)

(ただ……)

ヨシュア : はああっ! せいっ! やああっ!

ダグラス : (連撃のテンポが悪いな。あれを実戦でやったら二撃目の前に潰されちまう)

(それに利き手の逆が隙だらけだ。そこは稽古相手がいないと気づけないかもしれねぇが……)

ミレイユ : お兄ちゃん頑張ってるんです。いつかダグラスさんを超えるんだって。

ダグラス : それは十分伝わってくるよ。

ミレイユ : でも本当は、どうしたらもっと強くなれるか悩んでもいるみたいで……

ダグラス : そうか……

(強さなんてそんなもんさ。求めれば求めるほど、どこまで行っても悩み続ける)

(その壁にいちいちぶち当たってたらオレを超えるどころかそれ以上先にすら進めねぇ)

(……でも、誰かが手を貸すことで開ける道もあるよな)

(カティアがオレに<[AC0D0D]EMETH[FFFFFF]>の訓練でしてくれてるように……)

…………

安心しろミレイユ。オレがあいつを少しだけ<[AC0D0D]できちまう[FFFFFF]>男に近づけてやるさ。

ミレイユ : え……?

ダグラス : おい、ヨシュア!ちょっと休憩しろよ!

ヨシュア : ダグラスさん!?見に来てくれてたんですか?

ダグラス : ああ。少し手を止めて、休んどけ。

ヨシュア : いや、でも、もうちょっとやっておきたくて……

ダグラス : 体を休めるのも強くなるには大切なことだぞ。

ヨシュア : ……わかりました。

ダグラス : その代わり、休憩終わったらオレの剣の相手をしてくれよ。

ヨシュア : は……はいっ!よろしくお願いします!

 : 6

ダグラス : ブラックボックスってのは中身がわからないってことだろ?

だったら、その中にもっといいもんが入ってるかもしれねぇじゃねぇか。

少なくともオレはそう思うようにしてるよ。

アイリス : ダグラスさん……

キャトラ : まあ……アンタらしくはあるけど……

くれぐれも無理はし過ぎないようにね!

ダグラス : ああ、わかってる。心配してくれてありがとな。

正直、問題は色々あるのかもしれないがそればっか気にしててもしょうがないさ。

キャトラ : だからって、もっと慎重にならないと——

ダグラス : オレって存在はちっぽけなんだと気づいてからいろんなことを考えてみたんだよ。

ただ、やっぱり、戦えなくなったことが一番キツくてさ。

キャトラ : ダグラス……

ダグラス : というよりは誰のことも守れなくなっちまったってのがかな?

けど、まだオレにできることはあった。

なら、見えないもんに怯えてる時間があったらカティアを信じて前に進んだ方がいいってだけだ。

そのためにいまのオレにできることはやっぱり——

アイリス : <[AC0D0D]EMETH[FFFFFF]>をもっと自在に扱えるようになることですか?

ダグラス : そうだ。

そうすりゃ<[AC0D0D]EMETH[FFFFFF]>のことをもっと研究しやすくなるだろ?

キャトラ : ……たぶんね。

ダグラス : そうなればもっとみんなが使いやすいもんにカティアが改良してくれんだろ?

キャトラ : まあ……そうかもね。

でも、本当に気をつけるのよ。

ダグラス : 瘴気に蝕まれてたときからそういう面では結構強くできてんだよ、オレ。

それにオレじゃなくても誰かがやらないといけないことではあるはずだ。

アイリス : ソウルの輝きが減衰していってから世界はどんどん変わってますしね……

ダグラス : ああ、そうなんだよ。

それを支えようとしてるヤツ……未来が不安なヤツ……どうにか抗おうとするヤツ……

いろんなヤツがいると思うけど、みんな、心の中に空を覆ってたモヤモヤみたいなのができちまったと思うんだ。

そいつを晴らすことが一番<[AC0D0D]できちまう[FFFFFF]>ヤツがオレならオレがやるってだけだ。

但し、これからはただの実験体じゃなくて、<[AC0D0D]EMETH[FFFFFF]>の先駆者としてな。

アイリス : ……そうですね。<[AC0D0D]EMETH[FFFFFF]>はみんなの希望……

私もダグラスさんほどでないにしろ使いこなせるように頑張ります!

ダグラス : ああ、一緒に頑張ろうぜ!

じゃあ、まずは生活習慣の改善から始めるとするか!

アイリス : わかりました。健康第一ですね。

キャトラ : もう……仕方ないわね。

こうなったらアタシも全力で応援するわ!アンタの体の様子をちゃんと見守りながらね!

ダグラス : おう、心強いぜ!頼んだからな!